信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 翌日は、早朝からまだ小雨の降る中、
久保田が若い従業員を連れて函館方面へ捜索に出掛けた。
各地で被害が出ている為、消防や警察からの連絡を待っていては埒が明かない。
樹も行きたかったが、土地勘が無いだけに足手纏いになる。
悔しいが諦めて、連絡を待つ事にした。

 こんな時でも、牧場はいつも通りに動いている。
心配で眠れぬ夜を過ごした翌日でも、生き物を飼っている以上、
世話はキチンとしなければならない。
従業員たちは身体を動かす事で不安を打ち消し、働いているようだった。


 じっと牧場で待つ樹は、ただ辛かった。駆の相手は真由美がしていたが、
その姿を見ると彩夏を思い出して心が乱れた。
祥や石川からも連絡が相次いだ。
社長不在でも頑張ってくれているが、細かい指示は出さざるを得ない。
樹は仕事にも集中できず、冷静になれない自分を持て余した。

 午前中、役場に勤める金子俊一が森下家に立ち寄ってくれた。
役場にも道路情報は入ったが、彩夏の車は見つかっていないらしい。
樹も俊一と久しぶりに話した。だが、お互い彩夏の無事を祈るだけだった。


 じりじりと焦りが募る中、時間だけが過ぎていった。
午後になってようやく天気が回復し、日が差すようになってきた。
森下家のリビングでは、駆が樹の腕の中ですやすやと眠っていた。

 昼食を真由美に食べさせてもらった駆は、樹の腕の中にポスンとやってきて、
そのまま自然に眠ってしまった。母親の顔が見えなくて不安なのだろう、
樹の腕の中が安心できる場所のようだった。

 樹の腕の中で、すうすうと息をするたびに駆の胸が膨らんでは縮む。
生きている…命あるもの。40を過ぎて、初めて我が子を抱く日が来るとは…
駆を見つめると、樹の目の奥がジンと熱くなった。

 軽くて柔らかくて、暖かい我が子。
樹は、そのありがたさをしみじみと感じていた。
彩夏がこの子を生んでくれた事が、何より嬉しかった。
自分に知らせてくれなかった事など、もうどうでもいい。
彩夏が無事ここに帰ってくれたら…それだけで十分だ。

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