信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

「彩夏…。」

「何…。」

「駆に俺の写真を見せてくれたそうだな…感謝する。」

「あなたは…父親だもの…。」
駆の存在を知らせなかった罪悪感か、彩夏の口は重い。

「このままで、いさせてくれないか?」
「え?」

「このまま、彩夏や樹とここに居たいんだ。」
「樹さん…どういう事かしら?」

「そのままの意味だ。ここで君たちと暮らしたい。」
「私たちと…?」
「この母屋が無理なら、隣の爺さんの別荘でも…いや…
 一緒に住まなければ意味が無いか…。」

「意味が…解らないのだけど?」

樹は、駆を抱いたまま、彩夏も一緒に抱き込んだ。

「君が行方不明と聞いて、どれだけ後悔したか…。」
ギュッと抱きしめた手に力が入った。

「手放すんじゃなかった。離婚するんじゃなかった。」
「あの…。どうして…。」

「君や駆がいないと、俺は…。」
その先の言葉は樹からは言えなかった。
彩夏と駆が大切だからこそ、『生きていけない』という重い言葉を
口にする事が出来なかったのだ。

「樹さん…。」

「信じて欲しい。俺は、君を愛していた。いや、今も愛している。」

これは、夢だろうか。

彩夏は、何年も聞きたかった言葉を耳にした。
あの10代の頃から、何度も見た王子様が迎えに来てくれる夢。
その夢の中で、彼は自分に囁くのだ。
「愛している。」と。


「どうして…どうして今なの?何故、2年前に言ってくれなかったの?」

「すまなかった。俺に覚悟が無いばかりに…。
 あの頃だって、君の事は大切にしたかった。
 きっと、俺の気持ちは解ってくれてると思い込んでたんだ。
 君の信頼を得る努力をするべきだったのに…」

「…わからないよ…言葉で言ってくれなくちゃ、解らない…。」

彩夏の目から、さらさらと流れるように涙が零れた。
悲しくもあり嬉しくもある涙だ。

駆の小さな手のひらが、母の頬に伝う涙をゴシゴシと擦る。



「夢じゃないよね、駆。パパ、一緒に居たいって言ってくれたよ。」



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