豆腐と私の50日

 EP.14

 ――聞いてるか?

 「浜辺?聞いてるか?どうした?」

 みっち―の声に一切の返答を見せず、私は過去の記憶に耽っていた。
 
 「あ、ごめんなさい。」

 我に戻り、春斗を少しだけ見つめた。

 「なんだよ。どうかしたか。」

 結局、春斗は今ここにいる。
 それが実際で、真実。
 春斗は実家へ行くことを拒否したのだ。


 
 「で、どうだ。俺の代わりにやってみないか?」

 みっちーが再度、私に問う。

 「あ、はい。わかりました。やります。」

 咄嗟に反応して出た言葉だった。

 「じゃあ、後頼んだ。部活見に行ってくるから、このプリント終わらせておくように。わからない部分はちゃんと浜辺に聞いて、浜辺は黒板を使って教えること。」

 「え、みっちーそれはだめじゃね?」

 春斗が言う。

 「そうだよ。みっちー職務怠慢だー。」

 続けて頼葉が言う。

 「頼葉。職務怠慢なんて言葉知ってたんだ。」
 
 私が不思議そうに言う。

 「一応、田辺も知ってるよな。一応な。」

 みっちーが一応フォローしながら言う。

 「え、みっちーひどーい。沙紀もひどーい。」

 「まぁ、頼葉のことだしな。思われても仕方ないんじゃね?」

 「ほらね。満場一致だから可決だよ。」

 なんて三人で話している間にみっちーはいなくなっていた。
 頑張れなどの声もかけず、ドアを開け閉めする音すらなく。
 初めに気が付いたのは、頼葉。
 
 「あれ。あれ?みっちーいなくなってる!!」

 「え、嘘でしょ。逃げ足速くね?」

 「みっちーってどこの部活の顧問だったっけ?」

 「サッカーだったような…。」

 三人で横並びにグラウンドが一望できる窓を覗き込む。

 「頑張れよー!!」

 みっちーは、何故だかもうグラウンド近くにいて、覗き込むと同時に、私たちの教室へ向け大声を上げた。

 「ははっ。マジかよ。みっちーやばいわ。人間じゃねーわ。」

 逃げたことへの嫌悪感よりも驚愕した気持ちが先に出た。

 「ほんとに人間じゃないんじゃない?」

 「早すぎない?わざわざ猛ダッシュしてこんなことしたのかな?」

 「猛ダッシュした以外考えられないけど、そんな早く着くのか?」

 「じゃあ、プリントはやんないでみっちーの脚力について考えることにする?」

 「ありよりのありだね。」
 
 私たちがみっちーの不在に気が付き、グラウンドに目を向けるまでの時間はおよそ二、三十秒といったところ。
 その間にグラウンドにたどり着くとすれば。
 

 ――なんてふざけた話が始まることは決まっている話。

 それを承知でみっちーはこの場を立ち去ったのだ。
 いや、私の統制を試しているのか。

 でも、そんなことに期待しているのならそれは大きな間違いだ。

 私は、私も一緒に3人で話して、遊んで、楽しみたいと思うから。

 三人でいるというのはそういうことだ。

 「みっちー。ごめんね。しばらくはプリント。できません。」


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