オスの家政夫、拾いました。0. プロローグ

数時間後。リビングには早速二つの大きいゴミ袋が埋まっていた。中には今までためておいたペットボトルや、お弁当のプラスティック容器、その他ゴミがいっぱい入っていた。


「本日はトライアルなので、明らかに『ものとしての寿命がなくなった物だけ』を処分しました。本来ならもう少しクローゼットや本棚も片付けしたいところですが…」

「いや、もう疲れました。十分です」

「この本の山は…捨てますか?」

「あ、それは読み終わったのでこのまま捨てます」

「そうですか、なら…」


今瀬さんは紐で結んである本たばを彩響の前まで持ってきた。そしてなんと、彩響の手を握り、そのまま本の上に乗せる。意味が分からずじっと見ていると、彼がにっこりと笑った。


「今までお世話になった本たちに別れの挨拶をしましょう」

「挨拶…?」

「そうです。『面白い内容を知らせてくれてありがとう』と言いましょう。きっと本たちも喜びます」


彩響は訳がわからないまま、しぶしぶそのままお別れの挨拶を言い渡した。


「た、楽しくさせてくれて…ありが…とう…?」

「とても素晴らしいです。これできっと本たちもいい旅に出られるでしょう」


なにこれ、なにかの宗教?なんの儀式?混乱している間、今瀬さんはゴミ袋を全部持って玄関へ出た。さっきまでは気付いてなかったが、ゴミが消えるだけでリビングがいきなり広くなった。さっきの大量の本束も一緒に消え、さらに空間が広くなったのを感じた。


「あ…これが『片付け』?」

「そうです、必要なものだけを残して、自分の人生を幸せにするのが本当の『片付け』です。これからもっと幸せになりたいなら、ぜひ俺を呼んでください。…では」


爽やかな笑顔を残して、彼は去っていった。


「幸せ…?」


「幸せ」なんて、家政夫が普通口にする言葉なのか?考えながらリビングに戻った彩響は、すっきりした風景を見ながらつぶやいた。


「結局、最後の最後まで凡人ではなかったね…」


掃除するヤンキー、洗濯する変態、料理するガキ、そして片づけする信者まで。

やはり彼らは予想以上に個性の強い、『オスの家政夫』たちだった。
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