白鳥学園、いきものがかり
翔が私達から背を向けた。多分そっちの方が翔にとって立ちやすい位置なのかもしれない。
「おっと、」
「っ、凪…!」
凪との距離が更に縮む。
お互いの唇の距離…残り数センチ。
「マ…マスク上げて!」
誰かに聞かれないように、凪にしか聞こえないぐらいで小さい声で言った。
「どうしてです?」
「誰が見てるか分からないよ…!」
「そんな暇ありませんよ。周りをよく見てください」
そう言われ視線を泳がした。
携帯を見ている人や自分が押し潰されないよう必死に立っている人、鞄を抱える人など沢山の通勤者で溢れていた。
「自分の事で精一杯。俺達他人の事は、全く興味ないでしょう?」
「っ…そう、だけど…」
でも、唇に触れそうで─────、
「いいですよ、俺はこのままでも」
「だっ、駄目!ナギ…様ってバレるかもしれないから…!」
凪はふぅっと溜息を吐いてから、「それもそうですね」と一言。マスクを鼻まで上げた。
私も一息吐いた。
「紬は…ナギの方が好きですか」
真っ直ぐ私を見る目。
本気で聞かれてる。
「好きだよ?
…でもね、それ以上に。
凪の事も大好きだよ?」
ガタンッ…!
大きく揺れた電車。バウンドするかのように縦に大きく揺れた。
私は目を見開き、自分の唇を抑える。
「っ…!!」
─────触れた、
マスク越しの感触に。