白鳥学園、いきものがかり
凪の手が私の頭上に突いた。
──────その一瞬、
顔がぐんっと近くなった。
その時に、凪のマスクに、
「……っっ…」
唇が触れてしまった。
「…っ、急に来たね。吃驚しちゃった」
翔がそう言うが、何処にいるのか私には見えなかった。
何故なら凪が私の身体を抱き寄せてくれていたから。ぶつかりそうになった後頭部が当たらないように、抱えてくれていた。
「ああ、そうだな。紬、大丈夫ですか」
凪の胸の中に埋もれながら頷いた。
顔は真っ赤に染まっている。
…っ、ふ、触れただけだったから。
バレてない…大丈夫だよね。
凪の匂いに包まれながら心を静める。
落ち着かないと。
誰も知らない内に。
俯きながらゆっくり呼吸をした。
…よし。落ち着いてきたかな。
「─────紬、」
ビクッ、
「さっき、俺のマスクにキスしたでしょう?」
その言葉に目を見開いた。
恐る恐る顔を上げていく。
マスク越しだった声がクリアに聞こえて来る。
「あの場所、俺の唇の位置なんですよ」
マスクをずらし、顔を綻ばせる凪がいた。
っっ…バレて…、
「わっ!?また来るやつ…!」
翔がそう言うと、また電車が傾きかけた。人の圧は倍になり人一人のスペースも小さくなる。