ため息のわけを教えてください
「もういっそ諦めるか?」
「えっ」

「こっちもとっくに終電なんてねえしよ」
「ええっ?」

 わたしは足を止めた。駅まで急いでいたのは、わたしのためということなのだろうか。

「ちなみに、終電を諦めるとどうなるのでしょうか」
「どうって、そりゃ」

 大福さんは言い澱んだ。もしかしてこれは、そういうお誘いがうっすらと含まれているのだろうか。チタンフレームの眼鏡の奥、彼の目を見ようとするのだが、ラーメンの汁が飛んだレンズばかりが気になって、情報が何も頭に入ってこない。

「何考えてんだ」
「何って、居酒屋とか、ファミレスとか色々あるけど、どこ行くのかなあって」

「タクシーで帰るに決まってるだろ」
 眼鏡のブリッジを持ち上げて、大福さんは目を逸らした。

「え。タクシーですか」
 昔、一度だけ終電を逃してタクシーを使ったことがあるが、自宅まで深夜料金込みで一万円弱。日給と同じ出費は痛すぎる。

「ゆっくりでいいから、大通り出るぞ」
 彼はすっとわたしの前に出た。スマホを弄りながら、結構かかるんだな、と独り言をこぼしている。タクシー代を調べているようだ。
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