ため息のわけを教えてください
「わたし、知りたいんです。橋爪さんのこと。なんかわからないけど、すごく気になるんです。だからそれがどうしてなのかを今、調査をしているところなんです」
「ほう?」
 彼は下がりかかっていた眼鏡のブリッジを持ち上げた。今日初めてわたしに関心を示したようだった。

「協力してもらえませんか」
 両手で大福さんの右手を取った。骨格のしっかりした四角い手。分厚い手のひらは真冬の寒さで冷え切るどころか、汗で湿っていた。彼は唇を横に引いたまま顔を強ばらせている。明らかにわたしよりも、緊張している。

 気になっていた人に、初めて触れているというのに、不思議とどきどきはしなかった。コンビニ強盗が現れたとき、人がパニックになっている姿を見ていると、かえって気持ちが落ち着いたりするけれど、似たようなかんじだろうか。

「どうすりゃいいんだ」
「SNSで繋がるとかどうでしょうか」

 そうしたら、彼の好きな釣りのことも、少しはわかるようになるかもしれない。良案だと思ったのに、大福さんはSNSをひとつもやっていないという。彼が使っているのは、今はマイナーになってしまった、タイムラインなしのシンプルな通話メッセージアプリだ。もちろんわたしは使っていない。
< 31 / 46 >

この作品をシェア

pagetop