オスの家政夫、拾いました。1. 洗濯の変態編
一人残された彩響は、携帯の握って数回悩んだ。誰に連絡すればいい、誰に…?連絡先をずっとめぐっていると、ふと目に入る名前があった。

「変態家政夫さん」

今の状況で、呼ぶとしたらこの人しかいない。それはよく知っている。しかしどうしても手が止まってしまう。

(今の状況、なんて説明すればいいの?)

普段セクハラされていた上司に騙され、レイプされそうになった…と言ったら、なんて言うんだろう。
彼も母と同じことを言うかもしれない。今までの人生で出会ってきたすべての人がそうだった。なにかある度に女である自分を先に責める。夜中歩いていたお前が悪い、空気を読まずついていったお前が悪い、短い半ズボンを履いていたお前が悪い、セクハラされるような余地を与えたお前が悪い…。学校の先生も、母も、新聞もテレビもなにもかもが先に「女の態度」を先に問題視する。事件が起きるまで女がどう行動したのか、女がどれだけ愚かだったのかを先ず責める。もしかしたら、彼も、寛一さんも…。


(苦しい…)


寛一さんとは一切こんなことで気まずくなりたくなかった。いつまでもいい雇用主と労働者の関係で、気楽な関係でいたかったのにー。

目をじっと閉じて「発信」ボタンを押した。呼び出し音がなるその数秒の時間がまるで永遠のように感じる。しばらく時間が経ち、聞きなれた声が聞こえた。


「彩響さん、もう夜中の1時です。今どこですか?」


特に優しくも、特に冷たくもない、普通の声。それを聞くだけで涙が出そうだった。必死に我慢して彩響が声を出した。


「寛一さん、申し訳ないですが…ちょっとこっちへ来て欲しいです」

「会社にですか?」

「今警察署にいます」
沈黙が続く。向こうも驚いたようで、何を言えばいいのか分からない様子だった。


「なにがあったんですか?彩響さんは無事ですか?」

「私は…大丈夫です。来てから説明させてください」

「分かりました。すぐ行きます」


鞄に携帯を戻し、彩響はもう一口お水を飲んだ。まだ大山が自分の体に触っているようで、気持ち悪くて仕方がない。震える肩を自分で支えて、今にも消えそうな意識を必死で保った。

しばらくして、誰かが扉の向こうから走って来た。息を切らして、周りを確認した寛一さんがこっちへ走って来た。どれだけ急いできたのか、エプロンをかけたままだった。


「彩響さん、一体なにが…」


一瞬寛一さんの言葉が止まる。彩響の姿を見て驚いたようだった。その瞬間、部屋の奥から大山と佐藤くんが出てくるのが見えた。


「まったく、あのビッチのせいでめちゃくちゃだ!」


その声に寛一さんの視線が動く。彼の言動、そして彩響の今の状況。寛一さんが信じられない表情でつぶやいた。


「まさか…」


その言葉に、もう彼が状況をすべて把握したことを分かった。それ以上彼が何かをを言うのが怖くて、彩響は視線を逸らした。警官に引っ張られ彩響の前に来た大山が寛一さんを見る。


「はあ?誰だ、お前」

「……」

「なんだ、峯野。お前男飼ってたの?裏でやることやっておいて外では清楚な顔して。お前なんか股開いてどっかでくたばればいいのに」

「編集長…!もういい加減にしてください!」


佐藤くんと警官が彼を止める。しかし彼の暴言は決して止まらなかった。


「尻の軽いくせに、ちょっと胸触ったくらいで大騒ぎして…」

「あなたが私をレイプしようとしたんでしょ!」
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