溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

 恋心を自覚したとはいえ、俺は元々恋愛が得意な方ではない。立場的にも、入社してすぐの新入社員に迫るわけにはいかない。当面の間は上司として、彼女を温かく見守ることに決める。

 悠里に営業事務の仕事を教える女性社員は、冬に産休に入ることが決まっていた。なので悠里はそれまでに彼女のこなしていた仕事をすべて覚えなくてはならず、最初の頃は苦労していた。

 もちろん、他の社員たちにもフォローさせるよう課長には伝達済みである。それでも悠里は時に残業をしてまで必死で仕事を覚えようとしていて、俺は努力家な彼女にますます惹かれていった。

 しかし、上司としては、新入社員の頻繁な残業を見過ごすわけにはいかない。

 あまりに遅くまで勉強に没頭している彼女を見つけると、『それくらいにして、上がりなさい』と声をかける日も何度かあった。

 悠里はいつもそこで初めて時計の示す時間に気付き、『もうこんな時間ですか!?』と慌ててデスクを片付け始める。

 そんな彼女が無性にかわいらしくて、時々、車で送ってやろうかと言いだしたくなる日もあった。

 しかし、下心があると思われても困るし(実際下心はあったが)、不器用な俺はアプローチの仕方がわからず、結局一度も彼女を送ってやる日は訪れないまま、季節は流れた。

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