君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

この中?
私はギョッとしてフロアを見回した。
今、社内には男女合わせて複数の社員がいるけど、そんなことが出来る人なんていないと思う。

「何馬鹿なことを言っているの?」

「ホラな、そんな奇特な奴なんているわけがない。ということでこの話は終わり」

副社長はパンと手を叩き、一方的に話を終わらせた。
今の言葉は初めから誰もそんな人はいないと見越してことだろう。
これは間違いなく確信犯だ。

社長に目を向けると、ぴくぴくと眉間にしわを寄せている。
これはかなり怒っているというのがひしひしと伝わってくる。
不意に社長と目が合った。
私を見つめながら右手を顎に当てて思案している様子の社長に首を傾げた。
「あっ!」と何かを思いついたかのように笑顔を見せた社長はおもむろに口を開いた。

「香澄ちゃん、悪いんだけどこの馬鹿の面倒を見てくれない?」

「えっ、私ですか?」

なぜか私に白羽の矢が立ち、すっとんきょうな声が出た。

「おい、母さん!何を言っているんだ」

「母さんじゃない、ここでは社長でしょ!そんなことより、海里がこの中の誰かが面倒を見ればいいって言ったのよ」

「言ったけど、そんな奴いないと思ったから言ったわけで」

副社長は困惑気味にポリポリとこめかみを人差し指で掻く。
やっぱりそうだったんだ。
社長はお構いなしで私に向かって言葉を発した。
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