エル・ディアブロの献身
「……待ってるのは私、で、間違いない?」
「っ、うん、」
もしかしたら、と考えるのは自分でも悪い癖だと思っている。
けれど、考えてしまう。
変化のない人生など、ない。私を待っていると言った彼が、確かに待っていたとしても、もしかしたら、途中で待ち合わせている人が変わったかもしれない、だとか。何においても、【~かもしれない】を考えるようになってしまったのは、いつからだっただろうか。
「……で?」
「あ、えと、」
「話って、何?」
「あ、うん」
「なるべく、手短にお願い」
一応確認をしてから、席へと座る。
己の真後ろに座ってくれている一和理さんに申し訳なく思いながら、さっさと話すよう促した。
「……これ、」
「……っ、何……いらないよ、」
すると、テーブルを挟んだ向こう側にいるその人は、テーブルの上に薄い冊子を差し出してきた。
僅かに落とした視線の先で、存在を誇示する【施設】の文字。まさか、なんて、思いたくないけれど、人の口に戸は立てられぬということなのだろう。
しかしだからといって、私に何があったのかを知っていたとしても、彼には関係のないことだ。
「……花梛」
「いらない。言ったでしょ、お金、ないよ」
「……金は俺が出す」
「馬鹿にしてるの?」
自分でもびっくりするぐらい、低い声が出た。