エル・ディアブロの献身

 派手な髪色のツーブロック。右眉尻に丸玉のピアスと下唇の左端に二連のフープピアス。
 短いスパンで色々なことがあった。良いこともあったかもしれない。けれど、悪いことしか記憶にはなくて、そこに寄り添うのは絶望、それだけ。
 (なか)自棄(やけ)になっていたあの日。「身体、買ってもらえませんか」と声をかけたその人、郡上(くじょう)一和理(いおり)さんのことを、いつかの映画で見た【裏社会の人間】というやつだと私は思った。だから、そういう取引を持ちかければ、事が進むと思っていた。
 しかし、彼は違った。人を見掛けで判断してはいけないと、常日頃から母に言われていたのに、それをしてしまった私に対して彼は、自身の家に招き、暖かいココアを入れてくれた。
 恐る恐る、それに口をつけていれば、その人はどこかに電話をかけていた。きっと、警察だ。そう思ったのは、己のしようとしていたことが犯罪だという自覚があったからだろう。捕まる。だけど、それでいいと思った。それが、正しいことなのだ、と。
 おそらく、私自身も、まともに思考できなくなっていたのだろう。短絡的に、臓器を売って金銭を得ようなど、そんな人間は処されるべきだ。そう思ったから、暖かいココアをいただきながら警察の到着を待っていたのだけれど、あの日やってきたのは、警察官ではなくて、とてもキレイな女性(ひと)だった。
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