エル・ディアブロの献身

 ゆっくりと息を吐く。
 居留守だと思われるだろうけれど、ガムテープを剥がして覗くしかないか。
 意を決して、玄関へと向かう。

「すみませーん! 宅配便です! お留守ですかー?」

 あと二歩進めばガムテープを剥がせる。そんな距離まで近付いたところで、響いたその声。
 随分としつこい宅配便だなと思いながらも、宅配を受け取るときはすぐに出て受け取っていたから、不在のときはこれくらいしているのかもしれないとも思い、今さらながら「はーい」と返事をした。

「あ、いたんですね。ええと、宝来(ほうらい)花梛さんにお届け物です。結構大きいし重いんで、よかったら中まで運びますよ」

 チェーンをしたまま少しだけ玄関を開ければ、宅配会社の制服を身につけ、会社の帽子を目深にかぶった男性が両手で大きなダンボール箱を抱えて、母の旧姓であるそれを声でなぞった。

「あの、一回閉じますね。チェーンのけるので」
「あ、分かりました」

 大きくて、重い、宅配物。
 一体、誰からだろうか。
 そんな疑念を抱きつつ、チェーンを外す。過去に一度だけ、私の誕生日に空気清浄機が届いたことがあった。
 無論それは一和理さんと優美さんからで、さすがに自分では運べないからと言っていた記憶がある。以降は手渡しでくれていたから忘れていたけれど、今回もその(たぐ)いだろうか。
 しかし私の誕生日は、再来週だ。

「……お待たせしてすみません」
「いえいえ」

 疑問符を浮かべながら、扉を開けた。
< 31 / 55 >

この作品をシェア

pagetop