エル・ディアブロの献身

 ぴこん。
 手中で発された何度目かになるその音へと視線を向け、内容を確認する。

 ── 今日は休め
 
 おそらく、昨夜のことが原因だろう。
 私自身は平気だと思っているのだけれど、私が働かせてもらっているのは、彼、一和理さんが経営するバーだ。営業時間はもちろん夜から深夜帯にかけてだし、程度の差はあれど、お酒を(たしな)む場所だから、色んな意味で用心するに越したことはないということなのだろう。
 
「分かりました、っと、」

 返信をして、携帯を握ったまま腕を放り出す。
 突然の、休日。
 脳内でぽつりと呟いて、ゆっくりと身体を起こした。ぼんやりとしたまま、けれども、洗顔や歯磨きといった身体が覚えているルーティーンをこなして、再び、布団へと身を投じる。
 さて、何をしよう。
 洗濯物は、今、洗濯機が必死に洗ってくれている。それを干したら、掃除機をかけて、それで。
 と、そこまで考えて、思考が止まった。
 どれだけ脳みそを働かせても、それで、の続きはない。それで、で、終わってしまう。

「…………忘れてたのになぁ、」

 代わりに脳内を占めるのは、過去の記憶。いつもなら忘れるはずの夢を薄ぼんやりとでも覚えてしまっているからなのか、はたまた、やはり昨夜のことが思っていた以上に衝撃だったからなのか。

「……終わったこと……そう……終わった、こと、」

 言い聞かせるように呟いて、ゆっくりと目を閉じた。
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