溺愛過多~天敵御曹司は奥手な秘書を逃さない~
カシスオレンジが三分の一ほど残ったグラスに手を添えたまま、思い切って彼に顔を向ける。


日中、綺麗にセットしてある前髪は、午後十時ともなるとちょっと乱れていて、形のいい額に一筋下りている。
一筆で書いたような、凛とした形のいい眉に、スッと通った鼻筋。


斜めの角度から私を見上げる瞳は、お酒のせいか、どこかしっとりしている。
いつも柔らかい笑みを湛えている、スッキリと切れ長の目元がやけに妖艶で、恋人ではなく業務上の関係でしかない私たちの間の空気を、艶かしく濃厚なものに変えていく。
それなのに、私を射貫く深い海のように黒く澄んだ瞳は、獲物を捕らえた鷹の如く鋭く、圧倒的な光を放っているから、嫌でもドキッとしてしまう。


「まあ、あまりにも綺麗になってて、最初は確かに目を疑ったけど」


早鐘のような鼓動と、この事態への混乱で声が出ない私の手に、彼は自分の骨ばった大きな手を重ねてくる。


「っ……」


とっさに手を引っ込めようとしたけれど、それより一瞬早く、カウンターの上でギュッと握りしめられた。
心臓が跳ね上がり、呼吸まで止めた私を、彼はわざわざ身を乗り出して覗き込む。


「まさか、緊張してる? 社内の男から高嶺の華と崇められ、引く手数多って耳にしてる。こういうベタな誘いも慣れたんじゃない?」
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