あの日、小猫と出会ったから
「お前、そんな猫に懐かれたから最近怪我ばっかりしてるんじゃないのか? 悪いこと言わないから、早いとこ追っ払え。何なら俺が駆除しに行くぞ」
形の無い二本目の矢も命中した。駆除という言葉が自分に向けられたように感じて、苦しくなる。
「心配してくれてありがと、大将。大丈夫、野良猫だからすぐに居なくなるよ。で、全部で幾ら?」
「三十ルースだ。水とオレンジジュースは特別サービス」
「大将、太っ腹! 有難く頂くね。じゃ、また明日」
「おう、気を付けて帰れよ!」
笑いかけてくれる大将に、明るく手を振った。背を向けて扉を閉じた瞬間、作り物の笑顔が崩れた。
気味が悪い、叩き出す、駆除してやる。耳の中で繰り返し鳴り響く言葉。
「……はは、」
闇にまぎれて目元を拭い、自嘲した。
俺はバカだ。この街では嫌忌の対象だって分かってたくせに。
『とっても綺麗じゃない。僕、怖くなんかないよ』
リフの言葉のせいかもしれない。この街ではあり得ないことを期待したのは。
「さっさと兄貴のとこに送り返せばよかった」
舌打ちして、空を見上げる。雨が降るんだろう、星は見えない。
オッドアイを――本当の俺を認めてもらいたいなんて願いは、雲に隠れた見えない星を見たいと願うのと一緒なんだろう。
雨が降り始めた頃、家に着いた。リフは、俺の言いつけ通り同じ場所に縮こまっていた。いつものようにアイが出迎えに来て、俺の脚に擦り寄ってくる。
「遅くなって悪かったな」
「ううん」
声から察するに、もう泣いてはいないようだ。眼帯を外し、ろうそくを灯す。うん、小猫の涙は乾いている。
リフは傍によって来て、俺を見上げた。
「ジェイミー、怪我したの?」
「ああ、電柱に激突した」
「大丈夫? 痛そうだね」
目を合わせないようにしながら、鼻で笑って答える。
「こんな怪我、大したことないって。それよりほら、晩飯。大将特製のフライサンドだ。お前、オレンジジュース飲めるか?」
「うん、大好き」
「そいつぁ良かった。この水とジュースはお前のな」
普段、俺は溜めた雨水の綺麗なとこを飲んでいる。さすがにお坊ちゃんに同じ事をさせるわけにはいかない。そんな事をしたら絶対に腹を壊すだろう。
アイに晩飯を作り、俺はリフと向かい合わせに座って飯を食い始めた。きちんと『いただきます』と頭を下げるところに、小猫の育ちの良さを感じた。俺みたいな野良猫同然の奴とは大違いだ。
『駆除してやろうか?』
ふいに、大将の言葉が耳元で聞こえた。喉元に石ころが詰まってるみたいに、食事が通っていかなくなる。
『気味が悪い』
振り切るように、サンドにかぶりつく。美味しいはずなのに、味が分からない。気を緩めるとこみ上げてくる何かと一緒に、無理矢理飲み下す。
「……ジェイミー、何かあった?」
声を掛けられてはっとした。リフが食事の手を止めて俺を見ていた。心配そうに寄った眉の下に、透き通った海色の瞳。
ったく、勘のいいやつだ。触られたくないから、適当に答える。
「だから、電柱に激突した」
「そうじゃなくて」
リフは澄んだ声でもう一度尋ねる。
「何か、あった?」
形の無い二本目の矢も命中した。駆除という言葉が自分に向けられたように感じて、苦しくなる。
「心配してくれてありがと、大将。大丈夫、野良猫だからすぐに居なくなるよ。で、全部で幾ら?」
「三十ルースだ。水とオレンジジュースは特別サービス」
「大将、太っ腹! 有難く頂くね。じゃ、また明日」
「おう、気を付けて帰れよ!」
笑いかけてくれる大将に、明るく手を振った。背を向けて扉を閉じた瞬間、作り物の笑顔が崩れた。
気味が悪い、叩き出す、駆除してやる。耳の中で繰り返し鳴り響く言葉。
「……はは、」
闇にまぎれて目元を拭い、自嘲した。
俺はバカだ。この街では嫌忌の対象だって分かってたくせに。
『とっても綺麗じゃない。僕、怖くなんかないよ』
リフの言葉のせいかもしれない。この街ではあり得ないことを期待したのは。
「さっさと兄貴のとこに送り返せばよかった」
舌打ちして、空を見上げる。雨が降るんだろう、星は見えない。
オッドアイを――本当の俺を認めてもらいたいなんて願いは、雲に隠れた見えない星を見たいと願うのと一緒なんだろう。
雨が降り始めた頃、家に着いた。リフは、俺の言いつけ通り同じ場所に縮こまっていた。いつものようにアイが出迎えに来て、俺の脚に擦り寄ってくる。
「遅くなって悪かったな」
「ううん」
声から察するに、もう泣いてはいないようだ。眼帯を外し、ろうそくを灯す。うん、小猫の涙は乾いている。
リフは傍によって来て、俺を見上げた。
「ジェイミー、怪我したの?」
「ああ、電柱に激突した」
「大丈夫? 痛そうだね」
目を合わせないようにしながら、鼻で笑って答える。
「こんな怪我、大したことないって。それよりほら、晩飯。大将特製のフライサンドだ。お前、オレンジジュース飲めるか?」
「うん、大好き」
「そいつぁ良かった。この水とジュースはお前のな」
普段、俺は溜めた雨水の綺麗なとこを飲んでいる。さすがにお坊ちゃんに同じ事をさせるわけにはいかない。そんな事をしたら絶対に腹を壊すだろう。
アイに晩飯を作り、俺はリフと向かい合わせに座って飯を食い始めた。きちんと『いただきます』と頭を下げるところに、小猫の育ちの良さを感じた。俺みたいな野良猫同然の奴とは大違いだ。
『駆除してやろうか?』
ふいに、大将の言葉が耳元で聞こえた。喉元に石ころが詰まってるみたいに、食事が通っていかなくなる。
『気味が悪い』
振り切るように、サンドにかぶりつく。美味しいはずなのに、味が分からない。気を緩めるとこみ上げてくる何かと一緒に、無理矢理飲み下す。
「……ジェイミー、何かあった?」
声を掛けられてはっとした。リフが食事の手を止めて俺を見ていた。心配そうに寄った眉の下に、透き通った海色の瞳。
ったく、勘のいいやつだ。触られたくないから、適当に答える。
「だから、電柱に激突した」
「そうじゃなくて」
リフは澄んだ声でもう一度尋ねる。
「何か、あった?」