あの日、小猫と出会ったから
「え、何て言った?」
「怖い、の」
ぱたぱたと涙をこぼしながら、小猫は繰り返す。
「帰るのが、怖い……」
ひざの上で固く握られた両手。
「どうしてだ?」
尋ねてみたが、リフは首を左右に振るだけで答えようとしなかった。
『不安になっちゃったの……邪魔なのかなって』
最初の日にリフが言っていた事を思い出した。兄貴に邪魔だって言われた事で、家族に嫌われてんじゃないか、実際嫌われてたらどうしようって考えて『帰るのが怖い』のかもしれない。客観的に見れば、単なる誤解とか些細な事が原因なんだろう。でも、今の小猫にとっては、越えるのが怖いほど大きな壁に思えるのかもしれない。
「大丈夫だ」
泣き続ける小さな肩を抱いて、俺は断言した。証拠は無い。でも確信はあった。
「絶対大丈夫だ。話せばきっと、兄貴だって分かってくれる。父さんも母さんも、お前の事邪魔なんて思ってない。お前みたいな良い奴を嫌いになるわけない。一度帰って、聞いてみろ。絶対に俺の言う通りだから」
はなを啜って、リフは尋ねる。
「……根拠は?」
「無い」
どきっぱり言い切った上で、俺は続けた。
「野良猫の勘だ。絶対にお前の家族はお前を大事に思ってる。でも、百万が一俺の言った通りじゃなかったら、いつでもここに帰って来い。何なら、掻っ攫いに行ってやる」
渡航なんか出来ない身分のくせに、と背中に貼り付いてるあいつが笑った。悔しいが言い返せない。
掻っ攫うなんて大げさだと笑われるかと思ったら、リフはしゃくりあげて泣き出した。それまでと違う、何だか辛そうな泣き方だった。
「気に障ったか?」
首を横に振って泣き続ける小猫の頭を、俺は宥めるように撫で続けた。
大丈夫だ、お前の家族はお前を大事に思っている。リフにそう言ったくせに、心の片隅には『出来れば手放したくない』という感情が居る。リフは本当の俺を認めてくれたから。嘘つきで盗っ人の俺を、何故か無条件で信じてくれたから。
ふと、顔を知らない両親を想う。胸の中で温かさと寂しさが混じりあう。
もし両親が生きていれば、俺にもこんな弟が居たのだろうか。もし家族が居れば、俺は人の道を踏み外さずに生きて来れたのだろうか……。
ひとしきり泣いて落ち着いてきたリフは、俺を見上げて尋ねた。
「怖い、の」
ぱたぱたと涙をこぼしながら、小猫は繰り返す。
「帰るのが、怖い……」
ひざの上で固く握られた両手。
「どうしてだ?」
尋ねてみたが、リフは首を左右に振るだけで答えようとしなかった。
『不安になっちゃったの……邪魔なのかなって』
最初の日にリフが言っていた事を思い出した。兄貴に邪魔だって言われた事で、家族に嫌われてんじゃないか、実際嫌われてたらどうしようって考えて『帰るのが怖い』のかもしれない。客観的に見れば、単なる誤解とか些細な事が原因なんだろう。でも、今の小猫にとっては、越えるのが怖いほど大きな壁に思えるのかもしれない。
「大丈夫だ」
泣き続ける小さな肩を抱いて、俺は断言した。証拠は無い。でも確信はあった。
「絶対大丈夫だ。話せばきっと、兄貴だって分かってくれる。父さんも母さんも、お前の事邪魔なんて思ってない。お前みたいな良い奴を嫌いになるわけない。一度帰って、聞いてみろ。絶対に俺の言う通りだから」
はなを啜って、リフは尋ねる。
「……根拠は?」
「無い」
どきっぱり言い切った上で、俺は続けた。
「野良猫の勘だ。絶対にお前の家族はお前を大事に思ってる。でも、百万が一俺の言った通りじゃなかったら、いつでもここに帰って来い。何なら、掻っ攫いに行ってやる」
渡航なんか出来ない身分のくせに、と背中に貼り付いてるあいつが笑った。悔しいが言い返せない。
掻っ攫うなんて大げさだと笑われるかと思ったら、リフはしゃくりあげて泣き出した。それまでと違う、何だか辛そうな泣き方だった。
「気に障ったか?」
首を横に振って泣き続ける小猫の頭を、俺は宥めるように撫で続けた。
大丈夫だ、お前の家族はお前を大事に思っている。リフにそう言ったくせに、心の片隅には『出来れば手放したくない』という感情が居る。リフは本当の俺を認めてくれたから。嘘つきで盗っ人の俺を、何故か無条件で信じてくれたから。
ふと、顔を知らない両親を想う。胸の中で温かさと寂しさが混じりあう。
もし両親が生きていれば、俺にもこんな弟が居たのだろうか。もし家族が居れば、俺は人の道を踏み外さずに生きて来れたのだろうか……。
ひとしきり泣いて落ち着いてきたリフは、俺を見上げて尋ねた。