あの日、小猫と出会ったから
「本当に、兄様、心配してくれてるかな」
「勿論だ。俺が兄貴だったら、寝ないで探す」
「見つかったら?」
「先ずは一発引っぱたくかもな。心配させやがって、って」
 弱々しく笑って、リフは俺に寄りかかった。
「……優しいね、ジェイミーは」
 そして俺の袖を握る。
「お願い、ジェイミーも付いて来てね。一人にしないでね」
「分かった。ちゃんと付いてってやるから安心しろ。万が一兄貴が酷い事言ったら、俺が話つけてやる」
「……可能性が百分の一になってる」
 なんてね、とリフは笑った。さっきまでの暗い表情が幾分和らいだことにほっとする。
「そうだ、今晩はジェイミーとアイが僕のとこに来て、泊まってって。兄様がどうあれ、僕、ジェイミーとアイにお礼したいんだ」
「いや、それは無理だって」
 唐突な招待に俺は慌てた。きゅっと眉根を寄せる小猫に世界の現実を説明する。
「ほら、俺はお前と違うし。お前が泊まってるとこは、俺みたいのが入っちゃいけないとこだし。入ってもカッコとか見て摘み出されるのがオチだって」
「どうして?」
「そういう決まりがあるんだよ、世の中には。つまり、俺とお前は住んでる世界が違うって事」
「関係ないよ。同じ人間でしょ」
 そうだった、こいつはとても純粋な奴だった。この話は平行線で埒が明かなそうなので、別の現実に触れる。
「それにほら、俺もアイもこの街じゃ異質の――」
「オッドアイだから、って?」
 続きを言い当て、リフは寂しそうに目を伏せる。
「実は僕、父様譲りの瞳の色なんだけど……この色、父様の国では嫌われてるんだ。この瞳の色をしている人は問題児や悪人だって……凶事を起こす忌み子だとも言われてて……」
「そんなの、迷信だろ!」
 思わず声が大きくなる。切ない影を帯びた海色の瞳が俺を見上げる。
「根拠の無い迷信なんかに振り回される必要ない。大事なのはどんな見かけしてるかじゃなくて、どんな人間か、だろ?」
「だよね!」
 いきなり明るくなったリフの声に、俺は我に帰った。まだ涙目のくせに、奴はしてやったりと言わんばかりの笑顔で俺を見ていた。
「そんな、根拠の無い迷信に振り回される事無いよね。ってことは、ジェイミーもアイも僕のとこに来れるよね?」
 ……やられた。完璧に嵌められた。
「決まりね、ジェイミー。アイも、僕のとこに泊まってってね」
 ったく、こいつは純粋なのか悪賢いのか分からない。舌打ちしつつ、笑顔が戻ったことに安堵した俺は白旗を揚げた。俺があれこれ言うより、現実をその目で見たほうが納得するだろうし、と内心で呟きながら。
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