あの日、小猫と出会ったから
「連行しろ」
「はい」
 イルジアさんは素早い動作で俺の腕を後ろに捻りあげた。条件反射で抵抗すると鳩尾を殴られた。息が止まる。視界が霞む。おっさん達に囲まれ、鮮やかな速さで縛られた。
「徹底的な尋問を」
「承知しました」
 ちょっと待てよ。騎士殿の気持ちは分かる。相手は一国の王子様だ。こんな浮浪児みたいのが一緒に居て、身の危険があったかもしれないって疑うのも理解できる。
 でも、衝撃緩和の時間もくれないで、勝手に誘拐犯だと決めつけるのかよ。野良猫の話は聞くまでもないってか。野良猫は人間じゃないから対話など必要無い、尋問で十分だってか。
「だから、待ってってば!」
 幼い怒声が響いた。全員の動きがピタリと止まる。
「ひどいよ……アークもみんなも、僕の話を聞きもしないで、勝手にジェイミーを悪者にして」
 固く握られた小さな手が震えている。大きな目から、ぼろぼろと大粒の涙が零れた。
「ジェイミーは、僕を助けてくれたのに。ジェイミーが居たから、僕はここに帰ってこれたのに。なのに……何も知らないくせに、ひどい」
「シェリフ様……」
「みんな、僕のこと心配してたって言いながら、何があったか僕に聞こうとしない。いつもそうだ。僕の話なんか聞きたくないんだね。本当は、僕のことなんか心配してないんでしょ? 本当は、僕なんか居なくてもいいんでしょ?」
 騎士殿の表情に動揺が走った。シェリフの発言にショックを受けたらしい。おっさん達も気まずそうにしている。シェリフは泣きながら怒っている。
 恐らく、騎士殿は本気でシェリフを心配してたんだろう。王子自ら自分達とはぐれる様な事をするはずがないと、シェリフの事を信じていたんだろう。だからこそ、俺を誘拐犯と断定したのかもしれない。
「申し訳ございません、シェリフ様。軽率な行動を致しました」
「今すぐジェイミーを離して。そして、謝って」
 さすがと言うか、幼くても主君の命令は絶対らしい。一回り以上年下のシェリフの言う通り、アークさんは即座に俺の拘束を解いて謝ってくれた。
「ごめんね、ジェイミー。嫌な思いさせて」
 俺にぎゅっと抱き付いて、シェリフは謝る。
「いや、アークさんの気持ちも分かるし、その、こちらこそ何も知らずに失礼ばかり致したしたし……」
 慣れない敬語に舌が回らない。
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