あの日、小猫と出会ったから
 と、一人の少年が息急き切って正面玄関から走り出て来た。金髪に青い瞳の、涼しげな目元が印象的な少年。
「アーク! シェリフが見つかったって……」
 シェリフの肩がビクリと跳ねた。少年の目が見開かれた。ということは――
「ナイジェル王太子殿下。この通り、シェリフ殿下はご無事でお戻りになられました」
 イルジアさんが重々しい声で報告する。か細い肩を宥めるように軽く叩き、俺はシェリフを兄貴と向き合わせた。深く俯いたまま、小猫は震えている。
「シェリフ……」
 兄貴は泣きそうな顔をしてシェリフの前に立った。ついに感動の再会……と思いきや、兄貴はいきなりシェリフに手をあげた。
 一瞬、その場の空気が固まった。よろめいた弟の胸倉を掴み、兄貴はもう一度横っ面を引っぱたく。
「いっ……」
 手加減無しのビンタだ。兄貴の表情が歪む。シェリフの白い頬が赤くなっていく。痛そう……と思って見ていると、案の定大きな目からもりもり涙が溢れてきて、シェリフは声を出して泣き出した。
「ナイジェル様、どうか許して差し上げてください。御無事だったのですから」
 さらに手をあげようとする兄貴を、周りの大人達が止めた。肩を震わせ、固く手を握って兄貴は弟を睨む。
 無理もない。兄貴は相当怒ってるんだろう。それは恐らく、心配していたから。無事に見つかって、安堵したから。その理由に、兄貴の目が赤くなっている。よく見れば目の下にくまがある。もしかすると、眠らずに探していたのかもしれない。
 声をあげて泣くシェリフを乱暴に抱き締め、兄貴はぶっきらぼうに呟いた。
「心配させるな、ばか……」
 震える語尾に呼応してぽろりと零れた、透明な雫。
 良い奴だな、兄貴。色んな意味で安心したせいか、もらい泣きしそうだ。
「ごめんなさ……い」
 泣きじゃくりながら兄にしがみ付き、シェリフは謝る。小猫の柔らかい亜麻色の髪に頬擦りし、兄貴は涙声で囁いた。
「良かった……無事に、帰って来て、本当に良かった……」
 シェリフに負けず劣らず泣きじゃくる兄貴。うん、良い兄貴だ。良かった良かった。
 これにて任務完了。ま、俺の存在は特に必要なかったみたいだけど。
「もう、迷子になるなよ」
「本当にごめんなさい、兄様」
 小猫、無事に兄貴と仲直り。おっさん達も安堵している。めでたしめでたし。
 ほっと胸を撫で下ろした時、ふと過ぎったのは一抹の寂しさだった。
『僕は、ジェイミーの友達です!』
『どうして? 同じ人間じゃない』
『僕、怖くなんかないよ』
『ジェイミーに出会えて、ほんとに良かった』
 ……もう少し、小猫と一緒に居たかった。もう少し、シェリフと一緒に過ごしたかった。
 なんて本音、誰にも言わない。
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