あの日、小猫と出会ったから
「やっぱり、だめ?」
 とても寂しそうな眼をして、シェリフは俺に尋ねた。期待に応えたい気持ちはある。だけど。
 申し訳ないと思いつつ、俺は首を縦に振った。
「ごめんな、シェリフ。俺、アストランティアでやらなきゃいけない事があるから、一緒には行けない」
「そう……」
 がっかりしているシェリフの膝の上で、アイが欠伸をした。アークさんには物凄い威嚇してたけど、ナイジェルの事は平気みたいだ。かと言ってシェリフほどには気を許していないらしく、撫でようとしたナイジェルに野良仕込みのパンチをくらわした。王太子殿下は意外に動物好きらしく、パンチされても『可愛い』を連発している。
 良かった。この分なら、安心してアイを託せる。
「なあ、シェリフ」
 寂しさが決意をぐらつかせないうちに、話してしまおう。
「何?」
「俺もさ、一つ我儘言っていいか?」
 ぱあっと顔を輝かせ、シェリフは身を乗り出した。
「うん、何でも言って!」
 小猫の膝の上で毛繕いするアイを見つめて、俺は言った。
「アイを、レシュノルティアに連れて行って欲しい」
 諸手を挙げて喜ぶかと思えば、シェリフは物凄く動揺した顔で俺を見つめてきた。
「どういう、事?」
「さっきも言ったけど、俺はどうしてもやらなきゃいけない事があるんだ。だから、しばらくアイの面倒を見てやれない。俺の代わりに、アイの世話をしてやってくれないか」
 不安そうな小猫の眼。明らかに何か勘付いている。勘が良すぎるのも考え物だ。
「ジェイミー、まさか」
 核心に触れられる前に言葉を継ぐ。
「この国じゃ、オッドアイは嫌われてる。放っておいたら、アイは駆除されてしまうかもしれない」
「そんな、ひどい」
「だから、頼む。アイをレシュノルティアへ連れて行って欲しい」
 アイが鳴いた。心配そうな眼と理由を問いたげな眼が、俺を見つめている。
「やっぱり、無理か?」
 ナイジェルを見て尋ねたのは、シェリフよりも親の意向や国のルールに通じていそうだったから。
 しかし、兄猫は『自分で答えろ』と言いたげに小猫を見遣った。ふっと目を伏せて、シェリフはアイの頭を撫でた。
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