お嬢様と羊
「佳輝…」
「陽葵、俺言ったよな?
こんな汚ない世界にいるべき人間じゃないって!
お前がどんなに嫌がっても、お前は“喜多川 陽葵”っていう、姫なんだよ!?
でも結局、一弥と付き合いやがって!
俺がどんな思いで、お前を諦めてたと思ってんだよ!?」
「ごめんね、佳輝…」

「俺は、認めないからな!」
「佳輝…」

「陽葵?」
「あ、一弥…」
「なんなの?二人して」
「ううん。気にしないで?」
只事ではない、陽葵と佳輝の雰囲気。
そこに、紅茶を持った一弥が来た。

「気になる」
「言いたくない!」
「教えて?」
「羊が知る必要ない」
お互い譲らない。

「じゃあ、俺が教えてやる!」

「ちょっと!佳輝、やめて!」
「は?一弥には、知る権利があるだろ?」

佳輝が一弥に向き直り、話し出した。
「秀人が死んで、陽葵はぼろぼろだった。
毎日秀人の家の前に、ボーッと立ち尽くして……
秀人に会いたいって泣いたり、フッと意識がなくなったようにただボーッとしたり。
俺達は必死で、支えたんだ。
ちょっとでも目を離すと、秀人を追って死にそうだったから。
………………陽葵の親父が、なんでお前を認めないかわかるか?」
「え?」
「秀人と同じようにならないとは限らないからだ。
陽葵の親父に俺達も言われてるんだ。
陽葵と会うなって!
でも、陽葵が俺達は大切な仲間だからって会いに来てくれてるだけで、ほんとは関わっちゃダメなんだ!
俺達は、陰からでしか陽葵を守れないんだよ!」
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