お嬢様と羊
「なんでもいいから、早くしろ!?紅茶!」
そこへ陽葵が催促する。

「あ、ごめん!
陽葵、どうぞ!」
一弥が慌てて持っていく。
「ありがと。
………てか、冷えてるし…」
「あ…だよな。
ちょっと、待って!」

陸朗の所へ再度向かい一弥が言う。
「紅茶、入れ直してください」
「お、おぅ…」
一弥の黒い雰囲気に、陸朗が少しビビる。

「陽葵」
「ん?何?佳輝」
佳輝が陽葵の横に座り、みんなに聞こえないように話す。
「一弥はやめとけよ!」
「はぁ?なんで、アンタに指図されなきゃいけないの?」
「また…好きな男を、失うかもしれないからだよ!
俺は一弥がほんとに、お前を連れて逝けるなんて思えないから」
「なんで、アンタにわかんの?」

「秀人に似てるから」

「え……」
「陽葵だってそう思うだろ?
秀人と一弥は、似てる」
佳輝の真っ直ぐな視線。
「や…めてよ…」

「秀人は陽葵を、誰よりも何よりも大切にしてた。
どんなにぼろぼろになっても、陽葵が悲しむからって陽葵の前では手を出さなかっただろ?
秀人なら、一瞬で勝てる相手にも絶対に……
あの日も陽葵が追いかけて来たから、秀人は殴られてそれを見たお前が相手に突っ込んで行った」
「あんまり、覚えてない。
気づいた時には、冷たくなった秀人がいた」

「一弥も、きっと…お前の為に自分を犠牲にする。
………そんな予感がするんだ。
それはもう…悲劇しか生まない」
「じゃあ、私にどうしろって言うの?」
「親父さんが言ってただろ?
普通の結婚をしろって!」

「九重と、結婚しろって言ってるの?」
「そうだよ」
「冗談やめてよ!」

「冗談で、そんなこと言わねぇよ!
だって、ほんとは俺が幸せにしたかったんだから!」
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