お嬢様と羊
一弥が持っていた花束が落ち、花びらが散らばる。

「ごめんね!ごめん!!」
一弥はただ誤り、陽葵を力いっぱいに抱き締めていた。
「そんなのが聞きたいんじゃねぇよ!?」

「迎えに来たよ、陽葵」
「え?」
その一弥の言葉に、陽葵が一弥を見上げる。

「九重さんに、言われた!
陽葵が壊れて見てられない。
そんな陽葵の状態を聞いても“約束”に拘るのか?って!」
「圭介が?」
「うん。だから、約束破りに来たの!」
「じゃあ…一緒にいられるの?」
「うん。
陽葵の親父との約束は破るけど、陽葵との約束は守りに来たよって言いに来たんだよ!」
「一弥…」

「もう…本当に、一人にしない!
“一緒に”暮らそう!陽葵」
一弥の迷いのない瞳。
真っ直ぐな視線。
力強い言葉。
それだけで、陽葵は生きていけるとさえ思った。

一弥が陽葵の頬を両手で包む。
自然と陽葵は、目を瞑った。
二人の口唇が重なり、次第に深くなる。

一弥の目からも涙が溢れていた。


そして二人は指を絡み合って手を繋ぎ、大志の屋敷の前にいた。

「大丈夫?一弥」
「うん!」
「今度は、信じていいよね?」
「うん!」
「この手、離さずにいられるよね?」
「うん!」
一弥が微笑み、片方の手で陽葵の頭を撫でた。


「行こう!
今度こそ、説得してみせるから!」
そして、二人は中に入っていった。
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