お嬢様と羊
「一弥…?」
「陽葵…」

陽葵はゆっくり立ち上がる。
そしてゆっくり一弥の方に、歩み寄って行く。

「羊」
「羊じゃないよ」
「一弥」
「陽葵」
「なんで、逢いに来てくれなかったの?」
「約束…守れなかったから」
「私に、逢いたくなかったの?」
「逢いかったよ。毎日、逢いたくてしかたがなかったよ」
一弥の目の前で、立ち止まった。

背の高い、一弥を見上げた。
「約束なんて破っていいから、逢いに来て欲しかった」
「ごめんね」
「私はもう…」
「ん?」
「九重 陽葵になったよ」
「知ってる」
「毎日、幸せに暮らしてるんだから」
「そっか」
「………」
「………」
「……嘘よ!!!」
「え?」
あっという間に、陽葵の目が潤み涙でいっぱいになった。


「地獄よ!!」
「え……陽葵…?」
「一弥がいないから、毎日…死にそうよ!
どうしてくれんの!?」
「陽葵…」
「どうせ、約束守るなら!
あの約束守れよ!」
「え?」
「一人にしないって言ったじゃん!」
「うん…」

「一弥がいないと、私は一人なの!!」
もう…涙が溢れて止まらない。
それでも陽葵は、涙を拭おうとはせず続けた。

「うん」
「今からでいいから!
責任、とれよ!!」
「陽葵…」


「約束…守れ!!羊━━━━━」
気がつくと陽葵は、一弥の腕の中にいた━━━
< 32 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop