お嬢様と羊
お嬢様に惹かれていく
「陽葵様よ!」
「ほんと…陽葵様、綺麗…」
パーティー会場へ一弥と共に到着し、会場の真ん中を歩く陽葵。

「こんばんは」
微笑みながら、ゆっくり歩いて会場中央にいる大志の元に向かう。

「陽葵様、外ではお嬢様なんですね」
「そうよ」
ワガママで口が悪いのは家族や友人の前だけなので、それ以外ではおしとやかなお嬢様だ。

「陽葵さん」
「あ、九重さん。
ごきげんよう」
「相変わらず、お美しい……」
手を取った九重。
手の甲にキスをした。

陽葵が一瞬、顔を歪めた。
一弥はさりげなく、九重が掴んでいた陽葵の手を取った。
「陽葵様、旦那様がお呼びですので参りましょう」
「え?えぇ…では、九重さんまた……」
手を引いたまま、大志の方へ向かう一弥。
しかし、一弥は大志のところではなく会場を出た。

「ちょっ…一弥!どこ行くの?
パパが呼んでるんじゃないの?」
「………」
「一弥!歩くの早い!
止まって!嫌、足痛い!!」
「あ…申し訳ありません!」
「何なの!?急に……」
陽葵が怒って、手を振り払った。
握られていた手を自分でさすった。

「辛そうだったから」
「は?」
「さっきの……キス、辛そうだったから咄嗟に……」
「え?
………どうして、わかったの…?」
驚いたように、一弥を見つめる陽葵。

「………たまたまですよ」
「………そうね、でも…ありがとう」
「いえ…あ…手、強く握りすぎましたね……」
一弥は優しく、陽葵の掴み痕のついた手首をさすった。
陽葵の心臓が“ドクン”と鳴る。
「やめて…もう、大丈夫だから…」
そう小さな声で呟いた、陽葵。
自分でもびっくりする位、弱々しい声だった。

「あ、そうですね……」


この時、お互いに心が惹かれていくのを感じていた。

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