お嬢様と羊
パーティーも終盤にさしかかり、大志が壇上に上がって挨拶を始めた。

陽葵と一弥は、壇上横にひかえている、
一弥はずっと陽葵を見つめていた。
陽葵は穏やかな顔で微笑み、大志を見ていた。

「━━━━━━では、私の愛すべき娘にも一言挨拶をしてもらおうかな。
陽葵、こちらへ」
陽葵はゆっくり、壇上に上がった。

「皆様、本日はお忙しいところ父の為にありがとうございました。
私も父の仕事を手伝いだして、一年経ちます。
…と言っても、こんな風にパーティーに出席しご挨拶するくらいですが……
まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願い致します」
大きな拍手の中、陽葵は動けなくなっていた。

陽葵の話を聞きながら、一弥は一人…陽葵の変化に気づいた。
一弥はすかさず壇上に上がり、陽葵に近寄る。
「陽葵様、支えますのでゆっくり歩きましょう」
「うん…」
社員達にわからないように、自然に壇上から下りた二人。
そのまま会場の外に促した。

その瞬間、一弥にもたれかかった陽葵。
身体がかなり熱っていた。
「陽葵様!?」
「………」
陽葵は、人酔いしていたのに加え、壇上にずっと当たり続けたライトに酔ったのだ。

一弥は陽葵を抱き上げ、車に足早に向かった。
車にひかえていた宇美に、一弥が焦ったように言った。
「至急、病院へ行ってくれ!!
軽い熱中症おこしてる!」
「え?」
「早くしろ!!?」
「は、はい!」
宇美は一弥のあまりの剣幕に驚愕し、恐怖を感じていた。

「んん…」
陽葵が目を覚ますと、一弥が手を握って顔を覗き込んでいた。
「陽葵様!大丈夫ですか!?」
「え……あ…一、弥?
ここ、病院…?」
「はい、良かった…」

「一弥…傍にいて…」
そう言うと、安心した様に少し微笑んでまた眠りについた陽葵だった。
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