お嬢様と羊
「…………ずっと、傍にいるよ…」
一弥は呟き、陽葵の頭を撫でた。

そこへ大志が執事の神保を連れ、入ってきた。
「陽葵は!?」
「旦那様、軽い熱中症でした。
もう大丈夫です」
スッと立ち上がった一弥。
一礼して、ベットから距離をおいた。

大志が陽葵の頬に触れる。
「良かった…俺にはもう、陽葵しかいない。
頼むから、先に逝くなよ……」
と苦しそうに言った。

大志の妻で、陽葵の母親・陽子を早くに亡くしている為、大志の陽葵への愛着はとても強いのだ。

「よく、わかったな。星野」
「え?」
「陽葵の体調」
「はい…ずっと見てましたから」
「だからと言って、認めてはいないんだからな!覚えておけよ」
「はい、心得てます」
「ん。じゃあ…あとは頼んだ」
「はい、畏まりました」

大志が去った病室のドアを見つめて、一弥は大志との約束を思い出していた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
交通事故をおこし、陽葵に助けられた後。
どうにかして陽葵と面識を持ちたいと思った、一弥。

なんと、大志に直接会いに行ったのだ。
暴走族の総長だった一弥は、かなり顔が広い。
色んな知り合いのツテを辿り、大志に会うことができた。

「喜多川 陽葵と見合いをさせてほしい」
と言った一弥に、大志はこう言い放った。

「陽葵の執事としてなら、傍にいさせてやってもいいぞ!
ただ、約束しろ!
交際は認めない!」
と。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そんなこと、わかってるっつうの……
それに、俺なんかのこと好きになるはずねぇし……」
一弥は、約束を思い出しながら呟いた。

「誰が?」
その時、陽葵の声が病室に響いた。
< 7 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop