恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 我が社からそのブランドショップまでは距離的に遠くはなく、渋滞もなかったのですぐに到着した。
 タクシーを降りて、目当ての店の扉が開くと同時に、綺麗な女性店員がおじぎをして「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。
 私はそれを見ただけでかしこまってしまい、歩き方がぎこちなくなった。

「莉佐ちゃん、どうしたの?」

「大丈夫です、不慣れなだけで……」

 私の返答がツボにハマったのか、健吾さんがアハハと軽く声に出して笑った。本当に感情豊かな人だ。

「不慣れなの? 来たことない?」

「ないです。もちろんこのブランドは大人気ですから知ってはいますけど。私はこのお店で買い物ができるような財力はありませんので」

 挙動不審に早口で言い終えたところで、今度は副社長も含めてふたりで噴き出すように笑った。

 私の言い方がおかしかったのだろうか。私は一般庶民なので、ブランドものなんてたまにしか買えない。
 どちらかと言うとここは手の届く価格帯のブランドだから若い女性に人気なのだが、それでも毎月の給料をやりくりしながら生きている私には高額な代物であり、買うとなると勇気がいる。

「海老原さんは面白い人だな」

 笑っている副社長の顔がキラキラと輝く芸術品のように綺麗で、笑われた恥ずかしさなどすぐにどこかへ消え去った。

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