恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 健吾さんが副社長の友達とはいえ、なぜこの会社に簡単に出入りできるのだろうかと、私の中で疑問を抱いていたが、話をしている最中にその謎が解明された。
 健吾さんは我が社の取引先である㈱神山物産の社長のご子息らしい。

 ㈱神山物産は現在の社長同士が遠縁に当たるのだと、秋本さんから昨日説明を受けている。
 他人に近いくらいの、かなりの遠縁らしいけれど、健吾さんも副社長とは一応親戚になるから信用を得ているようだ。


 仕事ではない外出だから、社用車を使うのではなくタクシーで向かうことにした。 
 会社の玄関先に手配したタクシーが到着すると、副社長と健吾さんが後部座席に乗り込み、私は助手席のシートに座る。

 副社長が運転手さんに告げた行き先は、最近若い女子に人気のブランドショップだった。

「ん? 唯人、なにを買うんだ?」

「ちょっと……贈り物をね」

「女の子にプレゼントするのか? 珍しいな」

 健吾さんが声のボリュームを上げて茶化しにかかる。
 健吾さんの言葉通り珍しいのかどうかは不明だが、副社長が誰か女性のためにプレゼント選びをするのは間違いないようだ。

 さっきまで私をいびっていた秘書課の女性たちがこれを聞けば、驚きすぎて卒倒するかもしれない。
 そのあと悔しくて地団駄を踏みながらワーワー騒ぐのだろうな、と想像してしまう。

 誰も落とせはしない、と噂されている副社長なのに、まさか女性の影があるなんて意外だったけれど、これはトップシークレットだろうから絶対に他言してはいけないと自分に言い聞かせた。

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