恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「お恥ずかしい限りです。今後はないようにいたします。申し訳ありません」

 謝罪をする私に対し、深沢部長はフーッと溜め息を吐いてうなだれた。
 人違いであってくれと願っていたみたいだが、私がそれを打ち砕いてしまった。

「プライベートまであまりうるさくは言わないけど、君は我が社の社員であるのと同時に“副社長秘書”という顔もあるから注意してほしい。正直、素行が悪いのは困る」

「……すみません」

 深沢部長の苦言はもっともだ。全員が認知しているわけではないにしろ、私の顔を見れば副社長の秘書だとわかる社員もたくさんいる。
 私の行動ひとつで唯人さんの顔に泥を塗ることになりかねないのだから、深沢部長はそこを注意しているのだ。

「路上で言い争うなんて君らしくないじゃないか。なにか重大な問題でも抱えているのか?」

 私は無意識に苦悶(くもん)の表情になっていたのか、深沢部長が心配そうに声をかけてくれた。
 思わず首をふるふると横に振ってしまったが、洗いざらい包み隠さずに真実を話すタイミングは今なのではないかと考え、私は再び姿勢を正した。

「実は部長にお伝えしなければいけないことが……。昼間のトラブルは、私の恋愛が関係しています」

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