恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 お茶の出し方やおじぎの角度など、身につけたことが活かされて良かったし、それに気づいてくれた人がいたのは素直にうれしい。
 人生において“学び”は無駄ではないと思える瞬間だ。私は少しばかり顔を赤くしながら恐縮した。

「細やかなところまできちんとしようと心がける部分が秘書向きだと思った。それともうひとつは、こっちのほうが重要なんだが……」

 それまですらすらと言葉を紡いでいた深沢部長が、急に私の顔を見ながら言い(よど)む。
 基本的な接客マナーの点だけで私を副社長の秘書に抜擢はしないだろうから、ふたつめの理由のほうが圧倒的に決め手になったと思われるけれど。
 そんなに口にしにくいのかと一瞬不安になりながら、正面から部長を見据えた。

「帰り際に、武本課長に君の仕事ぶりとか人柄を聞いてみたんだ。やる気のある社員だと彼女も褒めていたよ」

 私の知らないところで武本課長にいろいろ聞き込みまでしていたとは。
 たしかに職場での私については、上司である武本課長に尋ねるのが一番早い。

「君に結婚の予定があるのかを聞いてみたんだ」

「結婚、ですか……」

「いや、結婚するかしないかはどっちでもよかった。知りたかったのは君の素行だったから。正直、男性関係が派手な人は困る。だけど思いもよらない答えが返ってきた」

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