恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 副社長とそんな話をしたのは、天ぷらをご馳走になったあの夜だけれど……。
 あの日は私の恋愛経験の話題になり、その流れから副社長が自分のことを話しただけなので、心を開いているとか、私が特別な存在なわけではないと思う。……たぶん。

「話変わるけど、実は昨日、健吾さんが会社に来たの。副社長は海老原さんと一緒に外出中だから、連絡を取りましょうか?って言ったら、自分で電話してみるからいいって」

「副社長に電話は……かかってきていない気がしますが」

 私は昨日、副社長の外出に同行していたし、一緒にいる時間が長かったけれど、副社長が健吾さんからの電話を受けていた記憶はない。
 だけどやり取りがメールならば気がつかないし、副社長もプライベートな内容を逐一私に報告などしないからわからない。

「健吾さん、いきなり来るからビックリしたわ。この前もあったでしょ?」

「ありました。あのときも副社長は不在でしたね」

 そういえば十日ほど前にも同じことがあった。突然訪問してきて、私たちに副社長の予定を聞いてきたのだ。
 そのときは私も秘書課でデスクワークをしていたので、秋本さんと一緒に応対したのをよく覚えている。

 どんな用事だったのかは不明だが、友人だから仕事がらみでないことだけはたしかなので、自分で副社長に連絡すると言われたらお任せしている。
 こう言ってはなんだが重要な用事ではないようだし、副社長もその対応でいいと了承済みだ。

「変だよね。副社長が会社にいるかいないか、先に電話して確認すればいいのに」

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