おじさんには恋なんて出来ない
 コンサートは無事終了した。

 美夜は来てくれた関係者に挨拶するため、ロビーに向かった。

 今回のコンサートを開催するにあたり、美夜一人のために手伝ってくれた人間が大勢いる。一人一人挨拶しながら、美夜はロビーに置かれた立派なスタンド花を眺めた。

 ファンが贈ってくれたものや、ラジオ局からのもの。音楽仲間からのもの。こんなものを贈られるようになったなんて、昔の自分が見たら驚くかもしれない。

 他にも籠に盛ったアレンジメントや花束も贈られていたようだ。置ききれないものは受付の横に置かれたテーブルに積まれていた。

 ────あれは。

 その時、美夜の目に一つの花束が映った。

 落ち着いた藍色のラッピングに包まれたその花は、今自分が髪に差しているのと同じものだ。白いスターチスの花は、夜空に光る星のように控えめに主張していた。

 慌てて花束に近づき、その花束に何か残されていないかと隅々まで眺めた。

 だが、カードも何もない。それでも、美夜は確信した。この花を贈ったのは辰美だと。

「あの……っこの花束を預けた人を見ていませんか」

 美夜は受付のスタッフに尋ねた。だが、スタッフは困った表情を浮かべた。

「いえ、ちょっとそれは……分かりません」

 何十個も贈り物を受け取っているのだ。そのうちの一人のことなんて覚えているはずもなかった。

 もうロビーには一般の客はいない。帰った後だ。

 会えなかった。けれど、辰美は会いにきてくれた。嬉しさと悲しさで感情がごちゃ混ぜになって、堪えきれずに涙が流れる。 

 ────辰美さん。会いたい。どこにいるの……?

 忘れられてなんかいなかった。辰美はずっと、自分のことを覚えていてくれたのだ。

 もうそこに愛情がなくても、それでも構わない。辰美は自分のピアノを聞いてくれていた。ならきっと、この気持ちもいつかは届くはずだ。
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