おじさんには恋なんて出来ない
 有野とは駅で別れた。辰美は美夜がまだ演奏しているだろうとは思ったが、メッセージを送ることにした。

 メッセージは簡潔に、ストリートを見に行ったこと、声を掛けようと思ったが、人が多くて出来なかったことを書いた。彼女があの場所を離れる頃には気がつくだろうか。

 けれど、美夜もあんなに人が止まるようになるなんて、随分変わった。出会った頃はもっと人が少なかったが、少しづつ応援してくれる人も増えているようだし、状況は変わって来ているのかもしれない。

 美夜の道が拓けていることは嬉しい。だが、一方で寂しさも感じた。

 応援しているアーティストが売れると、置いて行かれたような気持ちになる。自分が知っている彼女じゃないような気がした。

 だがこれは彼女が望んでいたことだ。美夜はピアノで生計を立てれるようになることを目標としている。だからこれは必要なことだ。

────もしかして、彼女が出来たとか……ですか?

 しかし、まさか有野に当てられるとは思っても見なかった。女性の勘とでもいうのだろうか。

 彼女もまさか自分がMIYAと付き合っているとは思わないだろう。それとも、何か思うところでもあるのだろうか。

 などと考えながら帰路についた。その夜、美夜から返事は返ってこなかった。
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