導かれて、放れられない
フッと天聖が微笑んだ。

「え……?」

その余裕の笑みを浮かべる天聖に、桔梗だけでなくチンピラの男も驚いていた。
この状況で余裕でいられるのは男だけなはずだ。
だって拳銃を突きつけているのは男で、天聖は突きつけられている方なのだから。

「お前にできんの?」
「あ?天聖…なんだよ、その余裕は……
やせ我慢なんじゃねぇの?」
「ほら、ここだよ!殺るなら一発でやらねぇと、次はお前の番だぞ!」
そう言って男の手首を持ち、更に銃口を固定した。

「や…やめ…て…」
やっと声が出た、桔梗。
弱々しく、小さな声だった。
「お願…やめ、て、下さい…お願い、します」
桔梗は男の服を掴んで、必死に懇願した。
「桔梗…?」

「…るせー、お前には…関係ねぇよ……!」
あり得ない状況に、男も完全に動揺していた。
天聖の余裕の表情や、桔梗の震えながらの懇願。

「だったら…お前を先に殺ってやるよ……!」
「ひっ……!!!」
今度は桔梗に銃口が向いていた。

ガン━━━━━!!!

でもすぐにそれは、解放された。
一瞬で天聖が男の首を持ち、車に押しつけたから。
「てめぇ…いい度胸してんなぁ…!
俺の恋人に銃口向けるなんて……
このまま無傷で帰してやろうと思ってたけど、気が変わった。
さぁ…地獄に堕ちろ!カス!」
「助け…て…くれ……」

ここの空間が凄まじい恐怖に包まれていた。
男の二人の仲間も恐怖からか動けずにいる。
天聖の雰囲気だけでなく、目の色が黒くイっていたから。
先程のショップ店員の言葉が甦る。

【あの方は、恐ろしい魔王ですから】
まさに“魔王”のような恐ろしさだった。

「天聖…さん…やめて…!お願い…!」
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