導かれて、放れられない
「嘘……天聖様…?」
「天聖様よ~」
「素敵…!」
クラブ内のホステス達が、目を輝かせるようにして言った。

「みんな、知ってるんだ…天聖さんのこと」
「えぇ、若はこの辺全て管轄しているので」
「てことは、よく来るんですよね…」
「まぁ、そうですね」
「………」
「桔梗さん…?」
ホステス達に囲まれている天聖を、ボーッと見つめている桔梗。

「よく考えたら、私は天聖さんのことよく知らないんですよね。
私にとっての天聖さんは、優しくて、綺麗で、嫉妬深くて、少し愛情が重たくて、支配欲が強い。
でもそれは、二人でいる時の天聖さんなだけであって、裏での天聖さんのこと何も知りません。この辺の全てをしきってるとか。
天聖さんのプレゼントを買ったお店でも、天聖さんの女が知らないなんて、おかしいって言ってました」

「若はあまり知られたくないみたいですよ。
けっして、綺麗な世界ではないので……」
「なんか、別人みたい…ですね…」
「でもあくまでも、今の若は“虎尾組の若頭”です。
でも“西尾 天聖”でいられるのは、桔梗さんの前だけなんですよ」
「え…」
「少なくとも、俺は若が優しいと思ったことありません。あの方ほど、冷酷な人間を知りません。
笑顔もあまり見たことがない。
まさに魔王のような方です。
桔梗さんの方が、若にとって“特別”なんですよ」
「はい…増見さん、ありがとうございます!」
微笑む、桔梗。
増見も自然と、笑みがでていた。

桔梗と増見が微笑み合っている。
この光景は、天聖の嫉妬を逆撫でしていた。
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