とろけるような、キスをして。

ありがとう




「いつからなんてはっきりとは覚えてないけど、出会った時からずっと可愛い子だなって思ってた。俺の授業の時の真剣な目も、図書室で窓の外見つめてる横顔も。全部可愛くて、綺麗で。よく考えればずっと視線で追ってたなって思う。
俺にとってあの図書室での時間は、仕事の疲れも忘れさせてくれる、すごく大切なものだった。でも、それはみゃーこがいたからだった」


「……」


「それに気が付いたのはあの卒業式の時だよ。馬鹿みたいだろ。それまで気が付かなかったんだ。いや、気付かないふりをしてただけかも。
だからこそ、四ノ宮先生には本当に感謝してる。四ノ宮先生がいなかったら、みゃーこは今ここにいなかったかもしれないし、俺もみゃーこと一緒にいられなかったから」


「……そうだったんだね。私も晴美姉ちゃんには感謝してるけど、今まで以上にもっと感謝しないとね」



修斗さんの話で両親が亡くなった時のことを思い出して、私の胸は締め付けられるように痛む。


「……あの時はごめんね。私、自分のことで精一杯で、周りが見えてなくって」


「それが普通。むしろみゃーこは一人で頑張りすぎてたくらいなんだから」


「……私、両親のことがあってから、ずっと自分を責めてて。
私があの日の旅行をプレゼントしなければ、とか。国内の旅行にしておけば、とか。いろいろ考えてるうちに目の前も頭の中も真っ暗になっちゃって」


「うん」


「皆の前でも、一人になっても、全然泣けなくて。体が震えるだけでね。寂しくて、苦しくて。どうしたらいいかわかんなかった」



 両親が亡くなってから修斗さんと再会するまで、一度たりとも泣いたことがなかった。


人間、どんなにつらくても泣けない時だってあるのだと、痛感させられた。


 目指していた大学も、一瞬で興味が無くなってしまうくらいには絶望していた。


それは嘘じゃなかった。本当に、興味が一切無くなってしまったのだ。


あの時、どうしてあの大学を目指していたのかすら、忘れてしまったくらいに。


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