とろけるような、キスをして。



 飛行機は予定通りに東京に着陸した。


そこから電車を乗り換えて、自宅アパートの最寄駅に着いたのが二十一時半。


 スマートフォンを出して先生の名前をタップする。


耳に当てると、ワンコールで先生の声がした。



『みゃーこ?』


「あ、先生。約束通り電話したよ」


『うん。待ってた』



 その柔らかい声が、電話の向こうで微笑んでいる先生を連想させる。


駅からアパートまで、たった十分の距離。


 いつもは遠く感じる道のりも、今日に限ってはとても近く感じてしまうほどに、あっという間に着いた。



「……先生、家着いたよ」


「お、早かったな。───おかえり」



 そんな、何気無い言葉を聞いたのが久しぶりすぎて、声が詰まりそうになる。



「っ……ただいま」



 家に入って荷物を置くと、



『疲れただろ。明日も早いだろうし、今日はゆっくり休んで』


「うん。ありがとう。おやすみなさい」


『おやすみ』



 電話を切って、着物だけ丁寧に箪笥にしまう。


それ以外の荷物はその辺に置きっぱなしにしたまま、私はベッドに寝転んだ。


 少し休憩のつもりだったものの、先生の言う通り疲れていたのだろうか。私はそのまま眠ってしまい、気が付いた時には翌朝になっていたのだった。


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