とろけるような、キスをして。



『金曜日は俺が仕事行ってる間に好きなところ行ってていいし。実家とか行くなら俺が仕事終わった後に迎えに行くから』


「いや、そういう問題じゃ……」



 正直、宿泊費がかからないのは魅力的な話だった。


チェックインやらチェックアウトやら、面倒な手続きがいらないのもありがたいと言えばありがたい。


先生の家から私の実家までも離れているわけじゃない。高校だって近い。


でも、だからってそこまで先生に迷惑をかけてしまっていいのだろうか。


 答えを渋っていると、電話の向こうで息を吐く音が聞こえた。



『俺に悪いとか思ってんなら、気にすんなよ?』


「……でも、さすがに先生に迷惑かけすぎだから」


『俺は迷惑なんて思ってないし、むしろもっとみゃーこに頼ってほしいよ。俺ができることならいくらでも、みゃーこの力になりたいから』


「……でも、してもらってばっかりだからやっぱり私が気にする」



 頑固だなって、呆れているだろうか。


でも運転してもらえるだけでありがたいのに、泊まりまでお願いするなんて。


そんな贅沢言えないよ。



『わかった。じゃあこうしよ。木曜と金曜、俺に晩メシ作って?俺みゃーこの手料理食いたい』


「え?」


『メシ作ってくれたら、その代わりに泊めてあげる。利害の一致だろ?』



 私の手料理なんて、泊めてもらうことの代わりになるほどの価値なんて無いのに。



「……先生って、バカなの?」


『ははっ、なんだよいきなり』



 私のことなんて、放っておけばいいのに。


バカみたいに心配して、バカみたいに世話焼いて。



「……いや、なんでもない」


『変なやつだな。……じゃあ決まりでいいな?勝手にホテル予約したりすんなよ』



 先生は、バカみたいに優しい。



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