とろけるような、キスをして。

l’automne




*****


 また時間を忘れながら実家で片付けに没頭している途中、自分のお弁当を作り忘れたことに気が付き、空腹を感じて実家を出た。


近くにあるコンビニは、東京でもよく利用するコンビニだ。せっかくなら地元のお店で食べたい。


 コンビニの角を曲がって、自動販売機の横を通って、信号を三つ渡って。


銀杏並木の入り口を素通りし、そのまま真っ直ぐ進むこと五分ほど。そこにある、国道沿いの小さなカフェに入る。


 カランコロンという昔懐かしい音を聞きながらドアを開けると、「いらっしゃいませ」という耳心地の良い高い声が聞こえる。


その声の主は、ミルクティーブラウンのボブヘアのとても綺麗な女性だ。



「……あれ?貴女は……」


「……ご無沙汰しております。雛乃さん」


「みゃーこちゃん!?」



 高校のすぐ近くにあるカフェ、【ロトンヌ】
ここは、私が高校生の頃に半年だけアルバイトしたカフェだ。


奥さんの雛乃さんと、旦那さんの大和さんの二人で経営している、小さなお店。


 店名である【ロトンヌ】は、フランス語で【秋】を意味する言葉だ。


 夫婦が出会ったのが秋だったことと、紅葉がとても綺麗な季節にお店をオープンしたことから、それにちなんでこの名前にしたのだと以前聞いたことがある。


 店内は柔らかい色合いを意識しており、茶色やベージュを基調とした落ち着いた雰囲気。


たまにある差し色の赤や黄の小物が、秋を連想させてとてもお洒落だ。


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