どこまでも
 「斎藤さん」と診察を終えたドクターは、淡々と今の容態を説明した。

「骨折などの大きなけがは見当たりませんでした。打撲や打ち身などはもう少ししたら落ち着いてくると思います。今は色が強く出ているので痛々しく見えますが、あと少しで目立たなくなるでしょう。ですが」

 声を潜め、(おもんぱか)る口調で続けた。

「体内の傷は結構な痛手を負っています。裂傷もひどいですし、普通異物を入れるべきじゃない場所に暴行を加えられているダメージはかなり大きいと思います。ただ括約筋(かつやくきん)などへの負傷は見受けられないので、障がいなど起こらないでしょう。それだけが不幸中の幸いだったかもしれませんね」

 ドクターはそこまで言うとほんの少し言葉に詰まり、優希へ向き合った。

「救急車で運ばれてきたときは全身震えて危ない状態でした。出血も多く、暴行事件として警察に通報しようかと思うくらいでした。でもあなたはそれだけは絶対にやめてほしいと訴えましたね。こちらもご本人の要望だったので通報しませんでしたが……斎藤さん、これはレ◯プ事件じゃないんですか?」

 優希は両手を握り締めて、だまりこくった。

 レ◯プで違いない。だけどこのことが公になったら禄朗に迷惑がかかってしまう。それだけは絶対に避けたかった。

「違います」
「斎藤さん……あなたの体から微量の睡眠薬と睡淫効果のあるものも検出されました。男性でレ◯プされた方はみんな恥ずかしくて、知られたくないと拒みます。ですが恥ずかしいことじゃないんですよ。年間に何件も発生しています。珍しいことじゃないんですよ」
「違います。レ◯プじゃありません。合意の上の行為でやりすぎました」
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