茨ちゃんは勘違い
木更津は、吹き込んだ呼吸が茨に入り込み、胸部が上下するのを確認しながら、それを何度か繰り返した。

そして、合間に心臓マッサージを入れて、真剣な眼差しで蘇生を続ける。

疚しい気持ちは一切無いのが窺える。

しかし、他の皆は思った。

(奇特だ……)
(奇特な人だ……)
(奇特な人が危篤な人を助けようとしている……)
(なんて奇特さ……)

茨を助けたい、ただその一心で行っている人口呼吸も、彼等が語れば別の意味で伝説になる。

人の生き死にが懸かっているのに、なんという不謹慎。

それでも、木更津の勇気ある行動は無事に実った。

「ぐぇっほっ、げぇほっ、ぐぇ、ぐぇ、ぐぇげぇほっ!」

童話なんかだと、王子様の接吻によりお姫様は蘇る、という夢のあるお話があるが、現実は遥か程遠く、まして茨の目覚めは夜中に田畑で合唱するウシガエルの如しであった。

吐き出したプールの水と唾が、全部木更津の顔に吹きかかる。

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