茨ちゃんは勘違い
「ふん。大人しく待っていたようだな。」

教壇に立つ時同様、黒酉は全身黒尽で現れた。

ただ違いがあるとすれば、それは水着、それも然り気無く抜群のスタイルを誇るしなやかな肢体を面積の狭い布切れで部分的に隠しているだけという事か。

生徒を平気でタコ殴りにし、人のものとは思えない程の腕力の持ち主にしては、意外にホッソリとしていて、出るとこは出ているという、学校の七不思議に数えられてもおかしくない体つきだ。

初めて黒酉のこの姿を見た百合絵は、色んな意味で敗北感を味わった。

黒酉は相も変わらず人を見下した視線を向けると、おい。と、誰かを呼んだ。

呼ばれた生徒は、何処かで見覚えのある顔だった。

「あ。」
「あ!」
「あら?」

目が合った瞬間、それぞれが声を上げた。

「「畑山先輩!?」」

「二人共、何で水泳部何かに?」
「一言余計だ、畑山。」

思わず口走った畑山に、眉毛を片方ピクリと上げて、黒酉が注意する。

すみません、と慌てて畑山が謝る。

「正式な部員では無いから、面識は無いかと思っていたが、紹介の必要は無さそうだな。たまに、雑用を手伝ってもらっている、畑山だ。こいつにお前等の指導をしてもらう事になった。」

黒酉は淡々とそう告げた。
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