今宵、ロマンチスト達ここに集いて
それを合図に、わたしと彬くんは気持ちをぐっと硬化させ、もう解けさせないと決意したまま、アヤセさんを戸口まで見送ることにしたのだった。
『確認です。あなた方は、今宵、これから起こることを何も知らなかった。いいですか?あくまでも、病院に侵入した見ず知らずの無関係な男が、あなた方の息子さんを連れ去った。あなた達は被害者でしかない……いいですね?警察や病院関係者から何を言われても、罪悪感に襲われても、そのことだけはつき通してください』
ことさら厳しい口調でこの後のことを明確に指示した。
わたしも彬くんも、じゅうぶんに心得ていると態度で返す。
真剣な面差しで頷いたわたし達に、アヤセさんはふわりと厳しさを一枚脱いだ。
『では、参りますね。この件でお二人にお会いするのは、これが最後になりますので……お二人とも、どうかお元気で』
アヤセさんは上品な微笑みの中にかすかに名残惜しさみたいなものを滲ませ、
わたし達夫婦は揃って、息子の命の恩人に対し、一礼した。
『くれぐれも、くれぐれもよろしくお願いします』
『どうか息子を、助けてください。あなたを信頼して、預けます。よろしくお願いします』
扉を開いたアヤセさんは、まっすぐな眼差しで応じ、最後の最後に一言だけ口にした。
『ありがとう』
そしてわたしが彼のその姿を見たのは、その夜が最後だった―――――