今宵、ロマンチスト達ここに集いて
「アヤセさんとの約束……って、でも、だったら前崎さんは?前崎さんは、そのとき息子さんには直接会えなかったんですよね?」
「そうなのよ。残念ながら」
「息子さんはご主人に会って、すぐに帰ってしまったということですか?」
「たぶんそうじゃないかしら」
「どうしてですか?そのアヤセさんとの約束では、前崎さんも大きくなった息子さんと会えるはずですよね?」
「そうなんだけど、もし、”夫の死期が近付いてること” が、息子が会いに来てくれた理由だったとしたら、その時はまだぴんぴんしてたわたしには、会う必要なかったんじゃないかしら。……わたしと夫の推測でしかないけれど」
「それじゃ、前崎さんは、その時は息子さんのこと探したりしなかったんですか?」
「探さなかったわ。というより、探せなかったの。大人になった息子がどんな外見をしてるのか分からなかったから」
「でもご主人は息子さんだと分かったんですよね?」
「夫も、一目見ただけでは気付けなかったみたいなの。だってわたし達は生まれて数日しか息子と過ごせなかったんですもの。夫は息子からヒントを告げられて、ピンときたみたいだけど」
「それなら、ご主人に息子さんの外見を聞いてから探せば……」
「それもダメだったの。その日は、夫の看病でバタバタしちゃってたから」
「そんな……、でも、息子さんがどんな大人になってたか、気になったでしょうに」
「なかなかの男前に育ってたらしいわよ?」
「ご主人は、息子さんとはどんな話を?」
「さあ……?夫が話してくれたのは、息子が会いに来てくれた、夫に似てロマンチストになってた、夫の病気を知っていた…それくらいかしら」
「前崎さんはご主人に詳しく尋ねなかったんですか?」
「もちろん訊いたわよ。でも、『そのうち千代にも会いに来てくれるよ』と言うばかりで、とうとうそれ以上のことは教えてくれなかったの。だってその次の日に、夫は息を引き取ったから……」