今宵、ロマンチスト達ここに集いて




興味津々だった私も、さすがに質問攻めの手が止まってしまった。

……そうだった。未来から来たという息子さんは、ご主人の死期を把握していたと、前崎さんは言ってたじゃない。
つまり、その日から遠くない先に、ご主人の死が待っていたわけで。


ここで私がショックを受けたところで、前崎さんを困らせてしまうだけだ。
そう分かっているのに、顔色が落ちるのは避けられなかった。


「あらあら、そんな顔しないで?岸里さんはすごく優しい看護師さんなのね」


前崎さんからは、からかいでも皮肉でもない、ただの優しい言葉が放られる。
私はそれを上手にキャッチして、前崎さんに投げ返したかった―――けれど、


「う……っ」


見向いた先、ベッドの上で、前崎さんが自分の胸倉を掴んで苦しみだしたのだ。


「前崎さん?前崎さん、胸が苦しいんですか?今先生呼びますね」


私は素早く前崎さんの様子をナースコールで伝え、医師を求めた。
余命宣告を受けてるとはいえ、こんな急変は異常だ。
焦る気持ちが先に出ないよう、私は自分を落ち着かせるためにも前崎さんに話しかけ続けた。
すると、前崎さんが苦しみながらも、私の腕を弱々しく握ってきたのだ。


「お願……、もし、不し…者、出て…も、息子、…も、…ない、から、この部屋……けは、……入れ、あげ、て……ほしい、の………」


お願い、もし不審者が出ても、息子かもしれないから、この部屋にだけは入れてあげてほしいの――――


要するに、あの長い長い思い出話は、すべてこの願いのためだったのだ。
その懸命な訴えに、私は何度も何度も頷いた。


「わかりました。わかりましたから。ちゃんと、そのようにしますから。だから安心してください。前崎さんはご自分の体のことだけを考えていてください」

「お願い……っ、もう、……ひと…は…嫌、なのっ……」


お願い、もう、ひとりは嫌なの――――


そう吐露しながら苦しむ前崎さんの姿は、看護師人生の中でも経験したことがないほどに辛くて、
何とかして救いたい、少しでも楽にしてあげたいという、職業上以上の感情が、確かに私を支配していた。


やがて医師と看護師が駆けつけたものの、私の心の中には、前崎さんからお願いされた()のこと、そして、前崎さんが吐き出した最後の本心が、大きく焼き付いていたのだった。










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