今宵、ロマンチスト達ここに集いて
「でも私がいない間に来られてたら、すみません」
「いいのよ。それなら仕方ないもの。でも、息子は、きっと、わたしの命の期限が切れる頃に来るんだと思うの。夫のときもそうだったから。だとしたら、早く会いたいような、もうちょっと後でもいいような、不思議な気分になっちゃうわね」
クスクスと少女のように朗らかに話しながら、前崎さんは壁に掛かったカレンダーを見やった。
「いったい、いつになるのかしらね……」
医師が診断した命の期限までは、まだ数ヵ月を残している。
それを越えるかもしれないし、そこに辿り着けないかもしれない。
つくづく余命宣告なんて酷な予言でしかないのだと、看護師の立場からも強く思う。
けれどおかしな話、前崎さんはご自分の命の期限を知らされたことで、息子さんの来訪に期待を寄せるようになったのは間違いないだろう。
つくづく人生なんて何がどうなるか分からないものだと、改めて思う。
「……もし、前崎さんの仰るように、息子さんが会いに来るのが前崎さんの命の期限が切れる頃なのだとしたら、私は、息子さんには会いたくありません」
私は本心からそう言った。
前崎さんは横になったまま私を見上げていたけれど、ややあってから、「やっぱり岸里さんは優しい人ね」と目を細めた。
その穏やかな流れの仕草すべてが、まるで幼子を相手にしてるような態度にも感じて、少し、むず痒い。
私とそんなに年齢も変わらないのに。
そう思うと、胸には針で貫かれたような、か細いくせに小さくはない苦痛が過った。