今宵、ロマンチスト達ここに集いて
そのあと、夕食の配膳で院内の賑わいがおさまった頃を見計らって、私は前崎さんの部屋を訪問した。
前崎さんはベッドの上で起き上がっていて、私を大歓迎してくれた。
さっきは枕から頭が離れることはなかったけれど、どうやら体を起こせるほどには元気が出てきたようだ。
けれどそれは、もしかしたら、どうしても月を見たくて最後の力を振り絞って起き上がったのかもしれない。
そんな想像すると、その細い肩に掛かったカーディガンのシワさえも、弱々しく感じてしまう。
「あらあら、岸里さん、どうしたの?何か忘れ物?」
「前崎さん……、あの……」
意気込んでここまで来たものの、どうしたの?と正面から訊かれるとたじろいでしまう。
まさか、”前崎さんをひとりぼっちにしたくなくて” なんて真正直に答えられるはずもないのだから。
前崎さんからしたら、私はただの担当看護師でしかないのだ。
”ひとりぼっちにしたくない” なんて、お節介に感じられるかもしれない。
前崎さんがそんな風に悪く受け取るとは思えないけど、でも……
「今夜一晩、こちらにお邪魔してもよろしいでしょうか?」
それらしい理由や言い訳を考えてから扉をノックするべきだったと、後悔と反省を抱えつつ、私は馬鹿正直に伺いをたてた。